第10章 冬はつとめて
先に外に出たのは沙織だった。
荒北もそれに合わせて一歩踏み出す。
冷たい風に当たって思わず肩をすくめた時、
「あー、さむっ!」
と目の前の細い肩が震えた。
その声に、沙織の格好をチラリと見ると、薄そうなPコートを羽織っただけで、マフラーも手袋もしていない身軽な格好が目についた。
「、、、チッ」
荒北は小さく舌打ちをした後、サッと首のモノを外して、雑に沙織の肩に掛けた。
いつだったか福富達と出かけた時に買ったワインレッドのマフラーだ。
「えっ、、、?そんな、いいって!マフラーとかいつもしてないし!」
ハァ?
いつもしてないだァ?
「ウッセーなァ、、、!病み上がりなんだろーが!いいから大人しく巻いとけっつーの!」
病み上がりにベプシとかっつったクセに、こンのヤローはァ!
荒北は沙織の言葉に呆れた。
「っつーかァ!いつもしてねェって何だヨ!!そんなだから授業中にぶっ倒れンだ!」
沙織を責めながらも、気恥ずかしさでその目を見ることはできなかった。
「、、、」
黙り込んだ沙織の様子をチラリとと横目で窺うと、少しは巻く気になったのか、目を瞑ってマフラーに顔を埋めていた。
何だヨ、ソレは、、、っ!?可愛いナ、チクショウ!
あーもう、クッソがァ、、、!
荒北は目を見開いたが、すぐに前に向き直って言った。
「、、、っつか、マフラー持ってねェんなら、ソレやる」
「えっ?」
「ソレやるって言ってんだヨ!」
クッソ、アレは福チャンが選んでくれて結構気に入ってたのにィ!
バァーカだ、俺はァ!
荒北は沙織にバレないように溜息を吐きながら、自転車置場へと向かった。
その間もやはり沙織の顔を見ることはできなかった。