第10章 冬はつとめて
校舎の出口でロッカーから靴を取り出して床に放り投げる。
扉から吹き込む風は春みたいに埃っぽいのにまだまだ冷たかった。
荒北は鼻の奥がツンと痛むのを感じた。
ここに来ンのも、、、あと少しだナ。
そんで、、、
トントン
先に靴を取り出した沙織が靴を履く音に、チラリと顔を上げると、夕陽に照らされて長い影が伸びていた。
コイツと会えるのも、、、
荒北はまた目を細めた。
逆光で光るその後ろ姿は眩しくて、目は痛いのに逸らすことはできなかった。
風に吹かれてサラサラとなびく長い髪。
、、、なんつーか、やっぱ綺麗だよナ、、、。
春の匂いを感じて、もう目の前に迫る試験のことと、卒業のことが頭に浮かんだ。
荒北は靴を履いてサッと立ち上がると、大きく一歩踏み出した。
そーだヨ、あと少ししかねェんだ。
分かってンじゃナイ。
そしてフン!と短く鼻から息を吐くと、静かに沙織の隣に立った。
その瞬間、冷たい風が頬を撫でて、頭の中までキンと冷えたような気がした。
いいじゃナァイ。
必死になって何が悪い。
前を向くと、沈みかけた太陽にまっすぐ照らされた。
横目で沙織の様子を窺うと、眩しそうに手で前を覆っている。
必死に前向かねェと、得られるモンなんて何もねェ!
そんなの俺が一番分かってンじゃナァイ!
ヘコんでるヒマなんて、ねェっつーの!!
荒北はもう一度フンと鼻を鳴らすと、薄い群青に染まり始めた空を睨みつけた。