第10章 冬はつとめて
何でだ?
「オイコラァ!香田!ちょっと待てって、オイ!」
そう言って、教室を出た沙織の背中を追いかけながら、荒北は考えた。
何でこんなにまでしてコイツといたいんだ?
正直、さっきのはかなり無理があっただろーが。
『、、、そんな身体に悪ィもん飲ましちまった罪滅ぼしとかじゃねェんだけどォ、、、その、なんつーか、、、一緒に帰らねェ?』
ハァ?
必死かヨ!!
「早くしろよ!、、、一応、送ってってくれんだろ?」
「そ、そーだけどォ!っつーか、歩くの早ぇンだよ!ホントにテメェ、病み上がりか!?」
沙織の声にハッと我に返った荒北は、
頭の中に湧き上がっているモヤモヤを必死で振り払い、参考書や問題集で重たいカバンを担いで、沙織の背中を追いかけた。
「ハッ、、、ハッ」
少し先で沙織の髪が左右に揺れる。
、、、っつーか、このヤロ、もしかして走ってンじゃナイ!?
全然追いつかねェんだけどォ!?
一向縮まらない距離に心の中でツッコミを入れながら、前を見据えると、窓から差し込むオレンジ色の光が沙織の細い髪に反射した。
、、、なぁ俺達は一体いつになったら並んで歩けんだ?
その眩しさに荒北は思わず目を細めた。
思えば俺たちは、初めっからそうだった。
これまで散々隣にいたのに、反発し合って。
近づいたと思えば遠くなって。
ホントはまた隣に行きたいのに、そんなコトは口が裂けても言えなくて。
今だってホラ。
荒北は少し近づいてきた沙織の後ろ姿を見つめた。
よく見ると一度暗くなったその髪に、少しだけ金色が戻ってきている。ふわりとなびくその長い髪が荒北の鼻をくすぐって、荒北は走っていた足を少しずつ緩めた。
やっと並ぼうと思えばすぐに並べる距離まで来たのに、これ以上俺の足は前に出ない。
ただ俺は、こーやってコイツのすぐ後ろを歩くのだけで精一杯で。
あんな脈絡もなんもねェような見え透いた言い訳をして、コイツと一緒に帰る権利を手に入れるだけでギリギリで。
、、、一体俺はどこまでカッコ悪いんだっつーの。
荒北はただその細い目で、夕陽に照らされてキラキラと光る沙織のまだらに染まった髪を見つめた。