第10章 冬はつとめて
なぁ、荒北。
やっぱり私には、アンタとどうなりたいかなんてまだ分からないよ。
だけどさ、荒北。
まだ言ってなかったけど
私、あんたと同じ大学に行きたいんだ。
水泳をしたい。
だからスポーツに力を入れている洋南を選んだ。
それは、ある。
だけど、あの日、あんたの
ボロボロになりながら
そいつと走るあんたの姿を見た時から決めてたんだ。
思ったんだ。
あんたとだったら、もう一度、頑張れるんじゃないかって。
もう一度、前に進めるんじゃないかって。
もう一度、前に進む私の姿をあんたに見てもらいたいって。
なぁ、荒北。
そんなことを言ったら、あんたはどんな顔をするかな?
目を開いて、驚くかな。
バァーカって、笑うかな。
ふざけんなってそんなに甘くないって、怒るかな。
それとも、来んなよって嫌がるのかな。
おかしいよな。
まだ受かってもいないのに。
こんなことを言って、
あんたが喜んでくれる保証なんて全然ないのに。
こんなバカなことを
あんたに言いたいだなんて。
、、、すごく、言いたいだなんて。
バカげてるよな?
たぶん、疲れてるんだな。
だから、それは、、、。
一通り笑ってから沙織は、もうほとんど沈んだ細い夕陽に照らされる荒北の背中に向かって言った。
「、、、なぁ、荒北」
「ア?」
「本番がんばろうな」
「、、、そうだナ」
それは、受かってから。
こちらを見もせずぶっきらぼうにそう答えた荒北の背を見ながら、沙織はこっそりと荒北に貰ったマフラーに顔を埋めて、目を閉じた。
ちゃんと受かって、
あんたに甘チャンだとか言われなくなって、
来んなよって言われても、どうしようもないだろって
言い返せるようになってから。
その時はもっと素直に言えそうな気がするんだ。
これからもよろしくなって。
笑って。
もっと近くで、言えるように。
ふわりと温かいその中で、沙織は覚悟を決めるように静かに深く息を吸った。