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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第10章 冬はつとめて


「はァ、ったく、、、ふざけンじゃねェってのォ」


溜息を吐きながら荒北は再び自転車に向き直った。


「ホラ、いつまでもニヤニヤしてねェでサッサと荷物貸せ」


「え、そんなのイイって」


拒否する沙織の荷物を半ば無理やりに奪って、荒北は自転車を片手に転がしながら、少し前を歩いた。


重い、だろうな、、、。


沙織はその少し後ろを歩きながら、荒北とキレイな青色の自転車を見ていた。


沈みかけた夕陽に照らされてキラキラと光るその自転車に、沙織は見覚えがあった。



あ、そっか、、、あの時か。



荒北と出会ってまだ間もなかった頃。
佳奈と廊下を歩きながら、窓から見たんだ。
この、青い自転車とこの細い後ろ姿が校門を駆けて出て行くところを。


遠かった。
それなのに夕陽に照らされて光るこの自転車を見て、
沙織はすぐにそれが荒北だと分かったのだ。


何でだったのかな?


あの時よりもずっと近くでその背中を見ながら沙織は考えた。


何で分かったのかな?


それが何となく不思議なことのような気がした。




そういえば、
コイツとはまだ出会って1年も経ってないんだな。
思えば初めて見たコイツの姿も、この後ろ姿で、、、。



春のむずがゆい空気の中、嫌々入った教室で、出会った頃のことを思い出した。


サラサラと春風に揺れる黒い髪。
それを沙織はキレイだと思ったのだ。



あの時は、こんなにムカつく奴だなんて思わなかった。


、、、こんなにブサイクだなんて、想像もしていなかった。


「ぷ、、、っ」
沙織は、初めて見た荒北の顔を思い出して笑った。


「ア?テメェ、まだ笑ってんのかヨ」
前を行く荒北が呆れたように顔をしかめる。



だけど、、、、



こんなにイイ奴だなんてことはもっと想像しなかった。



、、、こんな風に一緒に帰るなんてことも。




「笑ってないよ」

「バァーカ。嘘つけ、声が笑ってンだヨ」

「あは、バレたか」

「、、、ったく、マジで何なんだヨ」















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