第10章 冬はつとめて
マフラーを巻くのは好きではなかった。
この細く長い髪がすぐに絡まってしまうから。
それに首にまとわりつく感じが息苦しいから。
何だったら、少し胸元に風が入るくらいのほうが気分が良いくらいだ。
それなのに、、、
ホントにどうかしちゃってんな、、、。
沙織はゆっくりとその丸まった背中に手を伸ばした。
ずるいよな、、、こんなの。
小さくドキドキと鳴る胸は、うるさいのにどこか落ち着いていた。
アンタも、、、私も、、、。
もう少しでその猫のような背中に触れそうになった時、沙織はピタリ手を止めて、そのサラサラの髪の毛に触れた。
「ハッ!!?」
瞬間、驚いて飛び跳ねる荒北。
「ぷっ」
本当に猫みたいだ。
沙織は小さく吹き出した。
「な、ななな何すンだヨッッ!!」
これが猫だったらきっと毛を逆立てているんだろう。
飛び退いて、やたらと距離を取る荒北を見てそう思った。
「髪、跳ねてた」
そう言ってしまったら、もう止めることができなかった。
沙織は荒北の隣にしゃがみ込んで笑った。
「あはは、アンタ驚きすぎっ」
「ア!?何笑ってンだ、テメェコラ!」
「いや、だって、、、荒北、猫みたいっ、、、くく」
堪えようとすればするほど笑えてきて。
「ハァ!?猫だァ??ふざけんなヨ!?ホンットに心臓止まるかと思って、俺は、、、っ!」
「あはは、だって髪跳ねてちょっとハゲてたし、、、っ」
「コラァ!誰がハゲだァ!?」
「ぶふっ!あははは!!」
「テメェコラ!笑いごとじゃねェっつーの!!」
荒北が怒れば怒るほど、愛しく思った。