第10章 冬はつとめて
そして沙織はバカと言われてムッとした荒北が口を開きかけたのを見てハッと我に帰ると、サッと荷物を肩に背負い、踵を返した。
「さっさと帰るぞ!今日はなんか疲れた!」
そうしないと気恥ずかしさと嬉しさとで紅潮した頬に気づかれてしまうと思ったから。
「ハァ?、、、ってオイ!」
自分を呼ぶ荒北の声にチラリと後ろを振り返ると、荒北があせあせと荷物をまとめている姿が目に入って、沙織は更に歩幅を広げた。
「オイコラァ!香田!ちょっと待てって、オイ!」
待つことなんてできなかった。
そうじゃないと、嬉しさでにやけるこの顔に気づかれてしまいそうだったから。
けれど、、、
「早くしろよ!、、、一応、送ってってくれんだろ?」
「そ、そーだけどォ!っつーか、歩くの早ぇンだよ!ホントにテメェ、病み上がりか!?」
ダンダンと鳴る大げさな足音が少しずつ近づいて来るのを背中で感じながら、沙織は静かに微笑んだのだった。