第10章 冬はつとめて
「う、、、」
ちょっとちょっと、何らしくないこと言ってんだよ!
ほら!荒北だってちょっと引いちゃってるじゃん!!
「メ、メロンパンだけだけどっっ!!!そのっ、、、病み上がりにベプシは無いわ!どんなセンスしてんだっつーの!」
あまりの気まずさに耐えられず、やっとのことで付け加え、荒北の様子を窺った。
ドキドキと鳴る心臓は未だに煩い。
一瞬だけ間を置いて荒北はハッと我に返ったようだった。
「、、、ンなっ!せ、せっかく買ってってやったのに、その言い方は無いんじゃナァイ!?」
「い、、、いやいやいや、ベプシは無い!!体調不良の差し入れに何で刺激物なんだよ!」
荒北の反応にホッと胸を撫でおろして、必死でまくし立てる。
いつもよりは勢いはないが、そのやり取りに心臓の音はだんだん小さくなった気がした。
「そりゃア、お前が他に何が好きとか分かんねェし!!」
あ。一応、好きな物とか考えてくれてたのか、、、。
って、何ドキドキして、、、っ!
「は、、、はぁ?もっとこう身体に優しそうなやつだよ!ボカリとかさぁ!色々あるじゃん!」
「う、、、たしかに。そいつァ、その、、、悪かったな。センスが無くてェ」
荒北は沙織の反論に言葉をなくして、不貞腐れたような、少し落ち込んだような声を出した。
あ、、、言いすぎた。
その様子にズキリと胸が痛む。
「そ、そーだよ。反省しろ。」
「あぁ、、、」
それなのに、沙織はどう取り繕えばいいのか分からなかった。
「「、、、」」
再び沈黙が流れた。
荒北は不機嫌そうに目を伏せている。
そんな様子にまた胸が痛い。
あぁ、どうして私はこうなんだろう。
どうしてもっと上手く伝えられないんだろう。
これが佳奈なら上手く伝えるのかな。
自然に笑ってニッコリと、可愛らしく、、、。
そしたら荒北だってきっと引いたりしないんだ、、、。
、、、っていうか、何を?
私は何を伝えたいんだよ。
ずっと文句を言ってやりたかったんだ。
そうだ。
ずっとこんな調子で話したいと思ってたんじゃないか。
間違えていない。
言いたいことは言えた。
それなのに。
沙織も思わず視線を落とした。
目の前に見えた床は何故だか少しボヤけて見えた。