第10章 冬はつとめて
「、、、」
新開達が去った途端に走る沈黙。
「、、、」
暫くの間、沙織も荒北も互いを見ることができなかった。
帰路につく学生達の声がやたらと大きく聞こえた。
「その、なんだ、、、」
沈黙を破ったのは、荒北だった。
荒北は頭を掻きながらチラリと沙織を窺うように口を開いた。
その瞬間、荒北と目が合った沙織は自分の心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
「もう、体調はいいのかヨ」
「う、うん。もう大丈夫、、、」
昼休みが終わり、佳奈が教室に戻った後。
沙織は、次に荒北に会ったら文句を言おうと思っていた。
「病み上がりにベプシなんか持ってきてんじゃねーよ!バーカ!!」
素直にありがとうだなんて、絶対に言わない。
そう思っていた。
佳奈とこの教室へ向かっている間だって、楽しみにしていたくらいだ。
(いや別に、荒北は授業を終わっても教室にいてくれるだろうとか、早く顔が見たいとかそんなんじゃなくて、、、ただ私はあいつにどんな文句を連ねてやろうかって、そういう楽しみで、、、)
それなのに、いざ荒北を目の前にすると頭が真っ白になって、文句すら出てこなかった。
「そーか、良かったナ、、、」
「、、、うん」
歯切れの悪い荒北の言葉、声、表情。
その1つ1つに爆発してしまいそうなほど、心臓がうるさく脈打つ。
「、、、」
「、、、」
何!?
何これ!?
ちょっと心臓!止まれよ!!
静かな教室の中で2人きり。
心臓の音が荒北の耳に届いているんじゃないか。
そう心配になればなるほど、さらに心臓の音は大きくなった。
「その、、、昼メシは食えたか?」
来た、、、!
聞きにくそうに放たれたその質問に思わず生唾を飲んだ。
言え、、、!
ほら、
ここぞとばかりに文句を垂れるんだ、、、!
しかし小さく息を吸って、いざ言葉を発しようとした時、荒北と目が合って、
「、、、うん、美味かった。ありがとう、、、」
出てきたの言葉は
メロンパンを口に入れた時に思ったことだった。
「、、、!」
「、、、っ」
予想外だったのだろう。
沙織の返答を聞いて、荒北が目を見開く。
固まる荒北と目が合って、沙織もまた固まった。