第10章 冬はつとめて
心配性な佳奈を慰める沙織。
久しぶりに聞くそのやり取りに、荒北の心臓は通常な速さに戻った。
「、、、ったく心配させやがって」
荒北は短くため息を吐くと、頭をワシャワシャと搔いて呟いた。
「この調子だったら、すぐに戻ってくんだろ」
そしておもむろにポケットの中を探った。
「お、あったあった」
取り出したのはシャーペンとクシャクシャになったガムの紙。
「ま、これでいいだろ」
その紙をササッと広げて、少し考えてから走り書く。
『香田へ
食え。 アラキタ』
アイツ、、、身長の割にガリガリだったからナ。
書きながら、保健室へ運ぶときに触れた沙織の身体を思い出す。
すると妙にソワソワした。
荒北はそれを振り払うように呟いた。
「ま、まぁ、なんとか読めンだろ」
沙織の名前はかろうじてちゃんと書いたが、自分の名前を書くのは面倒で、よくわからない字になったが、良しとした。
そして荒北はそれを投げ入れるように袋の中に入れてから、ドアノブに袋の持ち手をひっかけた。
「、、、ヨシ」
今は気づかなくてもきっとチビ眼鏡が出て行くときに気がつくはずだ。
そしたら沙織の手に渡るはずだ。
荒北はドアノブに引っかかった袋を見て、フンと息を吐くと踵を返した。
、、、ホントは顔が見たかったケド。
声は元気そうだったし?
すぐに戻ってくンだろ。
、、、アイツはどんな顔すンだろうナ、、、。
そうやって沙織が自分の買ったメロンパンを食べるところを想像すると何だか誇らしくて、荒北は足取り軽く教室へ戻ったのだった。