第10章 冬はつとめて
昼休み。
荒北は、以前、沙織が喜んで食べていたメロンパンと、迷った末にそれ以外思い付かなくて買ったベプシが入った袋を下げながら、保健室へと向かった。
ただ昼飯を渡しに行くだけ。
ただそれだけのことだ。
それなのに、この頭は勝手に先ほどの沙織の笑顔を思い出して。
また話せる。
そう思っただけで、この足は浮かれて今にも走り出しそうになるくせに、時々進みたくないと言っては止まりそうになる。
うまく動かない自分の身体に苛立ちは募るのに、やはり嬉しくて。
荒北は油断するとにやけそうになるのを必死で堪えて深呼吸をした。
そして保健室の扉に手をかけた、その時、
「沙織ちゃん!!!」
という大きな声が中から聞こえた。
その瞬間、ヒヤリと飛び跳ねる心臓。
荒北にはその声が誰のものなのかすぐに分かって、捻りかけたドアノブからすぐに手を離した。
そしてドキドキとうるさい胸を押さえながら、荒北はしゃがみこんだ。
おいおい、何でチビ眼鏡がいンだヨ?
っつかアイツも今来たとこか?
、、、あ、あぶねェ、、、!遭遇しなくて良かったァ!
いや、まぁ別にに見られて悪いことなんかしてないんだケドォ。
荒北は手に持った袋を見つめた。
「っつか、、、どうする、、、?」
入るのか?
いや、入ったら絶対にチビ眼鏡が騒ぐ。
それは、、、なんかイヤだ。
っつか、できれば2人きりで話してェし。
かと言って待ってたってすぐに出てくるか分かんねェ。
ケド、コレはどうするんだヨ?もう買っちまったし。
「、、、」
保健室の前でひたすら迷っていると、
「っていうか、沙織ちゃん!大丈夫なの!?」
という佳奈の声と
「あ、うん。もう、だいぶスッキリした」
という先ほど話した時よりもたしかに元気そうな沙織の声。
それが耳に入ってきた瞬間、荒北は保健室の前を何度も行ったり来たりしていた足を止めた。
「、、、」
思わず、ホッと息が漏れる。
「良かった、、、!もう、ホントに心配したんだから。あれだけ無理しないでって、、、私、、、」
「あぁ、もう!佳奈。ちょっと貧血起こしただけだし、ほら大丈夫だから、、、」
そうか、、、。
良かった。
もう、大丈夫なんだナ。