第10章 冬はつとめて
沙織は笑った。
荒北との会話が楽しくて仕方がなかった。
だから
「とりあえず大丈夫みてぇだし、俺は戻るからナ!ついでに先生も呼んできてやっから、テメェはゆっくり、、、」
荒北がそう言いながら席を立とうとした時、思わずそのTシャツの裾を掴んでいた。
「ア?」
不思議そうに振り返る荒北。
「あ、、、えと、、、」
このまま別れてしまったら、また気まずくなるんじゃないか。
そんなことにはしたくなかった。
しかし訝しげな表情を浮かべる荒北にどう伝えれば良いか分からなかった。
ただ絞り出すように出た言葉は
「その、、、ありがとな」
ぶっきら棒な礼の言葉だけで。
荒北は一瞬拍子抜けしたように固まっていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて、
「、、、あぁ。そんじゃまぁ、無理すんなヨ!」
それだけ言って出て行った。
バタン。
「だぁ〜、、、ばっか、、、」
扉が閉まった瞬間、力が抜ける沙織の身体。
しかしすぐに飛び込むように枕に顔を埋めた。
行かないで、、、だって??
「〜〜〜〜っ!!(そんなん言えるわけないだろ〜っ!!)」
そして先程、自分の口から出そうになった言葉を思い出して、せっかく下がった沙織の熱は再び上昇するのだった。