第10章 冬はつとめて
ピッ、ピッ、、、
次に目を開けた時、沙織は冷たいベッドの上にいた。
ピッ、ピピッ、、、
「何の音、、、?」
忙しく鳴る電子音の方角を見て、沙織は目を瞬いた。
「クッソ!このエアコン全然効かないじゃナァイ!どーなってんだ!アイツが風邪引いたらどうしてくれんだっつの!」
荒北がエアコンのリモコンに向かって毒を吐いていた。
荒北の言う“アイツ”が自分のことだと理解して、沙織は思わず胸を押さえた。
「っつか、あのババァもどこ行ってんだヨ!こんな時ための保健の先公だろーが。ちっくしょ、氷枕もどこにあんのか全然分かんねーし!」
荒北は怒っていた。
沙織が目を覚ましたことにも気がつかない程、必死でエアコンと戦っている。
沙織は静かにその背中に手を伸ばした。
手を伸ばして、その背に触れたら何て言おう。
そんなことに考えが及ぶよりも先に体が動いていた。
今はただ、その背中に触りたい、、、。
そう思った。
自分の為に怒るその背中に、
そっと指先が触れるまであと少しのところで、
「ア゛!」
荒北が飛び跳ねるように振り向いた。
「っ!!」
「な、、、っ!な、何だ起きたのかヨ」
「あ、うん、、、」
「、、、熱は?」
「、、、無いと思う」
「どれ、、、」
言いつつ荒北の手が沙織の額に当たる。
その冷んやりとした温度はボーッとした頭に心地良い。沙織は思わず目を閉じた。
「、、、っ!」
その表情に驚いたのか荒北がパッと身を引いた。
「だ、大丈夫そーだナ!」
「うん、、、」
気まずい沈黙が流れた。