第10章 冬はつとめて
夢を見ていた。
暖かい春の日差しの中で、窓からは心地良い風が吹いていた。
ふいに吹いた強い風に髪を乱されて窓の方を見やると、そこには頬づえをつき眠るアイツがいた。
そして沙織はその気持ち良さそうに眠る横顔を見て微笑む。
ただただ幸せで穏やかな、そんな夢だった。
それなのに気がつくと涙が頬をつたっていた。
その冷たい心地に目を開けると、サラサラの髪の毛が頬をくすぐった。
ポカポカ陽気の中で日向ぼっこに明け暮れた猫のような、どこかで嗅いだことのある懐かしい香り。
この香りは、、、誰のだっけ。
熱くボーッとする頭では思い出すことはできなかった。
ただ今はこの香りに包まれていたくて、微かに感じる優しい揺れに身を任せていたくて、
沙織は再び重い瞼を閉じで眠りについた。