第10章 冬はつとめて
ダン!!
大きく床を蹴る音の後、隣のコートからは黄色い歓声が上がった。
その中心では、すっかり人気者もなった沙織が、額の汗を拭いながら笑顔を見せていた。
「はー、、、んだヨそれ」
そのキラキラした姿を見て荒北はため息をついた。
「ん?靖友、どうした?溜息なんかついて」
言いながらドカッと音を立てて隣に腰を下ろしたのは、コートから戻ってきた新開だ。
「なになに?荒北くん、恋の悩み?」
「俺にも聞かせて!」
それと騒がしいオマケ達。
「ウッセーなぁ。授業中だぞ、テメェら。ちょっとは静かにしろっての」
ムキになって否定したところで、コイツらの反応は変わらない。
荒北は、あの日沙織を帰りに誘った日から幾度となく振られるこの手の話題を、興味なさげに去なそうとした。
しかし、、、
「おおかた、沙織ちゃんに見惚れてたんだろ?」
「ブッ!!!」
新開の空気の読めない、いや敢えて読まなかったのだろう一言に吹き出した。
「えっ!何!やっぱ荒北ってそうなの?」
「ハッ!ちげーよ!バァーカ!!」
「嘘つけ!荒北くん!」
「そーだ!隠したって無駄だぞ!!」
「確かに最近の香田さんはイケてるもんなぁ」
「、、、何だ、違うのか」
振るだけ振っておいて少し残念そうな顔をした新開は天然なのか何なのか、その掴み所のない様子に荒北は舌打ちをした。
「当たり前だろ!テメェと一緒にすんな!この色ボケが、、、」
「えっ?いや、色ボケなんて、、、」
否定しながら、ははは、と照れて笑う様子が更に勘に触る。
「そーだ!コイツこそ裏切り者だった!」
「あんな可愛い彼女作りやがって!」
「あんな子がこの学校にいたなんて、、、不覚!!」
そうオマケ達が口々に羨ましがる新開の彼女とは、佳奈のことだ。