第10章 冬はつとめて
「香田さん!!」
「ほーい」
最近やっと真面目に受けるようになった体育の授業中にそれは起きた。
バスケの試合形式の練習で、身長が高く、もともと運動神経の良かった沙織は次々とシュートを決めていた。
シュッ!
沙織の手から離れたボールが軽やかな音を立ててゴールに入る。
「きゃー!さすが!」
「ナイッシュー!」
歓声が上がり、沙織もガッツポーズをした。
ここ最近、全体的に落ち着いてきた沙織は、クラスメイトとも打ち解け始めていた。
すると不思議なことにこれまでのように意味もなくイライラすることもなくなり、毎日が少しだけ楽になった。
こんな自分もアリかも、、、
チームメイトのハイタッチに笑顔で応じながら、沙織は思った。
しかし次に頭に浮かぶのは荒北のことで、、、
チラリと隣のコート脇を盗み見ると、試合の順番待ちをしながら新開達と喋っている荒北が見えた。
アイツも、、、楽しそうだな。
荒北の表情は仏頂面でふざける新開達をたしなめているようだった。
沙織はそんな風に荒北と話せる新開達が心底羨ましかった。
前は、、、2人だけだったのにな。
沙織は新開達とじゃれ合う荒北を見ながら、教室の端っこで2人並んでいた時のこと、2人で並んで座った屋上のことを思い出した。
何でかな?
毎日こんなに楽しいのに。
、、、寂しいだなんて。
クラスメイトと打ち解けてきたことで、さらに荒北との距離が広がった気がした。
「香田さん!行くよ!」
「お、おう!」
チームメイトに呼ばれて我に返り、走り出した瞬間、
ぐらり。
景色が揺れた。
クラスメイト達が横になって、、、って、違う。
横になっているのは自分だ。
とてもゆっくり、今すぐ手をつけば起き上がれそうなほどのスピードなのに、なぜか身体は動かなかった。
そしてそのまま冷たい体育館の床に倒れた。
「きゃー!!」
「先生!香田さんがっ!」
目の前でクラスの女子達が騒いでいる。
遠くの方で叫び声が聞こえる。
頭はひどくクリアだ。
そして一瞬、
「オイ!コラ!香田!!」
どこかで聞いた声が聞こえて、目の前が真っ暗になった。