第10章 冬はつとめて
嬉しかった、、、ことに間違いはない。
あの時、感情に任せて甘えてしまえれば楽だったのかもしれない。
だけどそんな気持ちで荒北に向き合いたくなかった。
大切だから、荒北の気持ちを知ってしまっているからこそ、そんなことはしたくないと思った。
私は間違ってなかったはずだ。
荒北の背中が校舎の奥に消えていくのを見つめながら、沙織は唇を固く結んだ。
それなのに、、、その結果がこんなだなんて、、、。
私はただ、今までみたいにあいつの隣にいたかっただけなのに。
「沙織ちゃん?大丈夫?」
「わっ!」
突然視界に現れた佳奈の顔に沙織は飛び退いた。
「なんか元気ない?」
そう尋ねる佳奈の眉毛はひどく下がっていた。
「あ、ううん!全然!、、、今日も受験勉強しなきゃと思うとちょっと憂鬱になっただけ」
「あ、そうだよねぇ。沙織ちゃん、頑張ってるもんね!けど、無理はしないでね?」
「うん、大丈夫!」
そうだ、ウジウジしている場合じゃない。
ほかにもっと集中するべきことがあるはずだ。
「最近、成績も伸びてきてるもんね。沙織ちゃんなら大丈夫だと思うよ」
「ありがとう」
ここ最近の沙織は荒北のことを考えないように、がむしゃらになって勉強していた。
皮肉にもその成果は出ていたようで、沙織は前回の模試でほぼ合格ラインに到達していたのだ。
「だから、ちゃんと夜は寝ること!そのクマ!ちゃんと取らないと本番頑張れないよ!!」
「わかってるって!もう佳奈は母さんかよ」
沙織は佳奈に向かって困ったように笑った。
勉強のせいだけで寝れてないんじゃないんだけど、、、。
「お母さんじゃなくても心配します!それにそんな顔だと荒北くんにも嫌われちゃうよ!」
「はいはい笑」
「もお」
沙織の気のない返事に佳奈は頬を膨らませる。
「倒れても知らないからね!」
「勉強のしすぎで倒れるなんて真面目みたいじゃん」
沙織はそんな会話で少しだけ心が軽くなったような気がして、笑顔で教室へと向かった。