第10章 冬はつとめて
おかしい。
絶対におかしい。
「オハヨ。チビ眼鏡、香田チャン」
かったるそうでいて、あくまで明るくおどけたその声に名前を呼ばれて沙織は目を見開いた。
香田、、、チャン??
振り向くと朝日を背に荒北が立っている。
「あ、おはよ!荒北くん!」
いつもどおり明るく答える佳奈。
対して沙織は眉をひそめて
「、、、はよ」
荒北を睨みつけるようにして答えた。
「、、、そンじゃな」
その様子に気づいてかそうでないのか荒北は口の端を少しだけ上げて、2人をすっと追い抜いていった。
「うん!またね!」
佳奈が声をかけると背中ごしにヒラヒラと手を振る荒北。
その一連の流れの中で、沙織は荒北と目が合うことはない。
あの日、荒北からの告白を断ってからというもののずっとそうだった。
「荒北くん、最近機嫌がいいね!良いことでもあったのかな?」
その声は今までになく上機嫌で表情も明るい。
なのに荒北は決して沙織を見ようとはしなかった。
「、、、うん」
返事と同時沙織の肩からは力が抜けた。
「沙織ちゃん?」
“香田!!”
なんて乱暴に呼ばれていた頃が沙織には懐かしかった。