第9章 break time④ 文学少女と荒くれ図書委員
不安な気持ちで荒北先輩の教室を見つめる。
何やら声が聞こえてくるけれど、あれは先輩の声だろうか、、、。
そして、
ガラッ!
という大きな音とともに荒北先輩が出てきた。
「あ、、、!」
喜んだのも束の間、
「荒北せんぱ、、、」
ビュン!
先輩は私達の目の前を嵐のように駆け抜けていった。
後ろにいた女の人の髪の香りを残して。
「え、、、?」
驚いて動けないでいると、ザワザワと荒北先輩が出てきた教室から次々と色んな人たちが顔を出した。
「何あれ!え!荒北って。え!?」
「いや、だって帰り誘ったよ?」
「あの2人って仲良かったっけ?」
「何あれ、実は付き合ってるとか、、!?」
状況はよく分からないけれど、その1つ1つが私の身体をすり抜けて次々と胸に突き刺ささって痛い事だけは分かった。
「、、、、」
「夏子、、、」
心配そうな2人の声にパッと顔を上げた。
「あ!先輩、忘れ物だったんだね!あんな綺麗な人忘れるなんてどうかしてるよね笑」
って、私は何を言っちゃってるんだ!
オヤジか!
「ってか大丈夫!全然ショックとかない!だって、、、」
痛いのに不思議と涙は出なかった。
「だってほら、顔、フツーでしょ?」
そう、だって私達はまだ何も始まっていなかったんだから。
私の物語は、ただ先輩から本を受け取って、彼と同じ空間で週に1度たった1時間ほどの時間を過ごすことだけで精一杯で。
先輩には先輩の物語があって。
それは私の知らないところで、きっとあの人と出会った時から始まっていたんだ。
「夏子、、、。でもほら!まだあの人と付き合ってるって決まったわけじゃないじゃん!」
「そうだよ!追いかけようよ!」
「、、、ううん」
私がどんなに図書室に通い詰めたって、どんなに寝る時間を削ったって毎年出てる本を読みきれないのと同じように、
だけどそれでも今読んでいる本に夢中でそんなことを憂いている暇なんてないのと同じように。
「きっと、あの2人は、、、」
きっと先輩はあの人に夢中なんだ。
「だって先輩、すごく嬉しそうだった」