第8章 秋は夕暮れ②
、、、俺、何した、、、?
そう考えた瞬間、荒北の頭は真っ白になった。
「何って、、、?」
本当は全部、はっきり覚えていた。
しかし思い出すことを頭が拒否していた。
「ずっと帰りたかったって何?」
「、、、ッ」
沙織の目にまっすぐ捉えられる。
ちょうど目の前にある夕陽が眩くて目がくらみそうなのに、荒北は目を逸らすことができなかった。
「それってどういう意味?」
そう言って詰め寄る沙織の近さにドキドキした。
「それは、、、」
もう、、、隠せねェ。
ゴクリ。
喉が渇いて仕方がない。
荒北は覚悟を決めた。
「、、、我慢できなかった」
「は?」
「お前が他の奴と帰るとか」
「え??」
「、、、お前のことが好きだから」
「、、、」
「アイツの代わりにはなれねェかもしんねェケド、、、俺じゃダメ?」
「、、、」
「俺と付き合わねェ?」
「、、、ッ」
固まる沙織。
しかし突然
「うそ!?は?うそだ!何言ってんの?バッカじゃない!?」
スイッチが入ったように早口で喋った。
「、、、ッ!嘘じゃねーヨ!」
荒北も早口で応える。
「嘘つくな!」
「嘘じゃねェ!」
「嘘こけ!」
「嘘じゃねーって!」
「、、、嘘」
嵐のような応酬の後、息を切らしながら赤くなる沙織。
「、、、だから嘘じゃねンだって」
荒北の息も切れていた。
「だって、アンタ、、、いつも悪口ばっか」
「そういう性格なんだヨ」
「今朝もこの髪変だって、、、」
「それは、、、嘘だ。、、、ホントはすっげー似合ってる」
「、、、」
再び黙りこむ沙織。
そして次に口を開いた時に出てきたのは
「、、、ごめん」
謝罪の言葉だった。
「そーゆーの、今は、、、考えられない」
「、、、そっか。分かった」
困ったような沙織の表情にズキンと胸の辺りが疼いたが、荒北はそう言ってただ静かに笑った。
「そンじゃな、、、」
そして沙織の横を静かに通り過ぎた。
今はただ早く帰りたい。
そう思った。