第8章 秋は夕暮れ②
「アンタが連れ出してくれなかったら思い出せなかった。アンタが、、、」
沙織はそこまで言いかけて、玄関を開けた時に見えた、心配そうな顔で立つ荒北の姿を思い出した。
よく考えたら、、、コイツだけが気づいてくれたんだよな。
走ってきたのだろうか。
息を切らして、今までに見たことがないくらい不安気な表情で立つ荒北。
ねぇ、巧。
ずっと学校に行けって言ってたのは、こういうことがあるから?
新しい出会いって、こういうこと?
、、、こんなの、想像もしてなかったよ。
沙織は喉の奥から何か熱いものが込み上げてくるのを感じたが、唾と一緒に力一杯飲み込んで、笑った。
「アンタが、ほんとーは禁止されてる女子寮の中を“必死で”走ってきてくれたおかげで、私は引きこもりにならずに済んだ」
「な!ンだ、その含みのある言い方はァ!?仕方ねーだろーが!こっちはテメェに何かあったんじゃねェかってマジで必死で、、、!!」
「どーだか!ホントは女子寮に入れて嬉しかったんじゃねーの??」
「バ、、、ハァ!!?テメェ、マジでブッ殺す!!」
「あははは」
「二度と心配なんかしてやんねーからなァ!クソ女!」
「お気遣いなく〜」
うん、もう大丈夫だよ。
私はもう大丈夫だ。
「アンタのそのブッサイクな顔を見てたら自然と笑けてくるし」
「ア?どういう意味だヨ、コラァ!」
「アンタの顔が可笑しすぎて、どんなに凹んでても笑っちゃうって意味」
「アァ!?」
「だから、私が凹んだ時は隣にいてよ?ネタとして」
「ハァ!?そんなモン、誰がいてやっかヨ!!ふざけんな、バァーカ!!」
「ふざけてねーし!本気だよ」
「はぁ!?」
「、、、今回はさんきゅな、荒北。助かったよ、その顔芸で」
「顔芸じゃねーヨ!!何だヨ!っつーか、何!?それって今回、俺が役に立ったのはソコってことォ!?俺、けっこう頑張ってなかったァ!!?」