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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第8章 秋は夕暮れ②


「巧に会って、もう戻れないんだって改めて実感して正直辛かった」



近くにあった公園の花壇に腰掛けると沙織はボソボソと話し出した。



「けどさ、なんていうかな、それ以上に思い出したんだ。巧がどんだけ優しかったか、どんだけ大きなものを私にくれたのか、、、。結局、巧が今までどういうつもりだったかとか私には分かんないままだけど、一緒に働いてた仲間にありがとうとか言われちゃって、、、なんか嬉しかった。」


荒北はただ目の前の地面を見ていた。



「3年間ここで頑張ってきた意味とか、それはその、、、巧がいたからだったんだけど、それ以外にもいっぱいあったんだって分かった。本当にいっぱい、、、」



「、、、」
沙織の声が震えて言葉が止まった。
それでも荒北は地面を見つめて、沙織の言葉を待った。



「あんなに私は生意気で文句ばっかり垂れてたのに受け入れてくれた。今までに無いくらい可愛がってもらったんだ。色んなこと教えてもらって、、、。学校は相変わらず佳奈と会える以外は面白くなかったけど、バイトは楽しかったんだと思う。、、、全部、巧がくれた。そんな居場所も、今の私も。だから、正直キツイんだけど、、、今はとりあえず感謝の気持ちでいっぱいだ」



沙織は目を赤くしながらも荒北に向かって微笑んだ。しかし荒北の顔は険しいままだった。
沙織はそれを見て吹き出した。


「ぷっ。何その顔、アンタもしかしてここまで言っても気にしてるわけ?」


「、、、うるせーよ」


荒北の顔は少しだけ膨れてさらに険しくなったように沙織には見えた。



「っつーか、アンタが気にしたところで変わんなかったよ。巧はああ見えて頑固だし、腕相撲はめちゃくちゃ強いし」


「ンなっ!俺だってなァ!!」


そう反論しかけた荒北の口を沙織の人差し指が塞いだ。



「アンタには感謝してる」



そう言った沙織の瞳が月の光に照らされて美しく、荒北は一瞬目を奪われた。
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