第8章 秋は夕暮れ②
「あーあ!」
「チッ」
荒北は、そうやってやけに明るいため息を吐いて伸びをした沙織の背中を苦々しく見て舌打ちをした。
「ん?」
その音に沙織が振り向く。
いつのまにかすっかりと日が沈み、ただ沙織の明るい声が聞こえるだけでその表情は見えない。
そのことが更に荒北を苛立たせた。
「ん?じゃねーヨ!!テメェ、さっきから何なんだよ、その態度は!!」
荒北は立ち止まり声を荒げた。
「、、、何って、、、いつも通りだけど?」
「そーいうこと言ってンじゃねーヨ!!」
荒北は奥歯をギリと噛み締めて沙織を睨んだ。
クッソ、、、何なんだよ。
巧に有無を言わせず店から出されてから沙織は黙って歩き出した。
荒北は隣に並ぶことはできず、トボトボとその後に続いた。
、、、何て声をかければいい、、、?
どうにかすると息巻いて、結局何もできなかった。
しかも沙織にまた追い討ちをかけるように、巧からの別れの言葉を聞かせてしまった。
沙織がバカみたいに明るい声であの部屋に入ってきた時、荒北は一瞬頭が真っ白になった。
巧に会うことで沙織が辛くなるのではないか。
そんなことが一瞬頭に浮かんだ。
それなのに、そんなことは比にならない程、きっと今目の前を無言で歩く沙織は傷ついている。
全部、俺のせいだ。
前を行く沙織の背中を見ると、胸の中が騒ついた。
しばらくして沙織はピタと足を止めて小さく息を吸った。
荒北は焦る気持ちを抑え込んで、拳に力を込めた。
どんな風に責められたって構わねェ。
それでテメェが少しでも楽になるんなら。
荒北は振り向いた沙織の顔をまっすぐ見た。
その顔は暗くてよく見えなかった。
本当は奪ってしまいたかった。
隣で涙を流す沙織に自分の気持ちを伝えてしまいたかった。
しかし沙織がこのまま泣いているくらいならば、巧とうまくいってほしいと思った。
それで沙織が笑ってくれるなら。
自分の気持ちなんてどうでもよかったのに。