第8章 秋は夕暮れ②
「、、、」
「大切にしてた。彼女に傷をつけないように。彼女がいつだって引き返すことができるように」
荒北はただ静かに巧の話を聞いていた。
「だけど大切にしすぎて彼女に頑張れなんて言えなかった。学校のことも水泳のことも、、、あの子が悲しむくらいなら忘れさせてあげたかった」
そして巧は寂しそうに笑った。
「でも、そうじゃなかった。沙織は君と出会って変わった。水泳のために大学に行きたいと言いだしたり、クラスメイトと仲良く話したり、、、僕には、したくてもできなかったことだ。、、、いや、本当はそんなことしたくもなかったのかもしれない。このままずっと僕の側に、ただ今まで通りいてほしかった。」
そんなの、自分勝手だろ?
巧は自嘲気味に笑って俯いた。
「、、、だから?」
その頭に荒北は冷たく言い放った。
「え?」
巧は目を丸くして顔を上げた。
荒北はイライラしたように溜息をついた。
「だから俺にアイツを譲ろうってことかよ?ハッ!バァーカ!!」
「バ、、、?」
荒北は握った拳に力を込めた。
巧は痛みで顔をしかめた。
「好きな奴がテメェの元から離れてく、そんなの誰だって嫌だろーが!それをチマチマチマチマ。ウッゼーんだよ!」
「ウッゼー、、、?」
「そんなモン全部獲っちゃえばイイじゃナァイ!!奪えヨ、全力で!年上だからァ?アイツの為だからァ?ハ!!笑わせんな!結局、テメェの気持ちぶつけンのが怖いだけじゃナァイ!!」
巧はあっけにとられていた。
「そんなんだからアイツの気持ちにも気づけねーんだヨ!バァーカ!!」
荒北の瞳が鈍く光り、不敵な笑みが浮かんだ。
「、、、テメェがそんなんだったらな、俺がマジで獲りに行っちゃうゼ?」
その笑みに巧は思わず生唾を飲んだ。