第1章 春はあけぼの
1学期も中盤にさしかかり、中間試験の時期がやってきた。
自転車競技部3年の福富、東堂、新開、荒北は駅前のファミレスで勉強会をしていた。
メニューが安い、長時間いても文句を言われないなどの理由から皆で集まる時は決まってここのファミレスだ。
「あー!クッソ!わかんねェ!!」
「なになに?荒北くん。この天才・東堂尽八に教えを請うてもいいのだぞ」
「うっせー!お前だけには聞かねェよ!っつーか、テメェ、文系だろ?何で一緒に勉強してンだ」
「何ー!?荒北、そんなことを言って俺を仲間外れにする気だな!」
「黙れって!なー福チャアン!ココ、分かるー?」
「うむ、、、」
福富が黙り込む。自転車は誰にも負けないが、勉強は難しい。
「ほーれ、荒北!俺に聞くのだ!」
東堂が荒北を指差す。
「新開、ココ分かるー?」
荒北は東堂を一瞥し、新開に教科書を見せる。
「あーっ!やはり俺を仲間外れにする気であろう!!福!キャプテンとしてここはバシッと」
「うーむ」
福富は腕を組み、唸るだけだ。
「ッハ!福チャンもテメェの相手なんぞしたくないってェ!テメェは大人しく古文でもしてお、、、」
と言いかけた荒北の頭を誰かが掴んだ。
「いってーなァ!誰だヨ!?」
振り返るとウェイトレス姿の沙織がいた。
「ハァ!?何でテメェがいンだよ!」
「やぁ」
新開がにこやかに手を振る。
「お客様、他のお客様のご迷惑になるので、お静かに願えますかっ!このヤロー!!」
沙織は勢いよく荒北の頭を振り払った。
ガンっ!
テーブルに額をぶつける荒北。
「ーーっ!」
「沙織ちゃん、ごめんね。それにしてもウェイトレス姿のせいかな?いつもと雰囲気違うね」
新開は悶絶する荒北を余所に、沙織に声をかける。
「おぉっ!もしかしてこの女子が噂の?」
と東堂も興味深げだ。
俺のことは、、、無視かヨ、、、!
東堂の勢いに沙織はたじろいだ。
「そうか?バイトの時はこんなモンだろ」
「綺麗だね」
新開はまっすぐ沙織の目を見て、微笑んだ。
「とっ!とにかく、静かにしろよなっ!」
沙織は顔を真っ赤にして、急ぎ仕事に戻ろうとしたが、ふと立ち止まった。
「あ、そういえば、、、」
不機嫌な荒北の教科書を覗き込む。
「ここは、こーだろ。」