第8章 秋は夕暮れ②
「ハッ!大切にしてたっつーなら、何であんな風に振ったりしたンだよ!」
荒北はギリギリと奥歯を噛んだ。
扉を開けた時に最初に見えた沙織の顔が焼き付いて離れない。
イライラする、、、。
誰のせいでアイツは、、、。
「沙織が水泳をしてたことは知ってる?」
荒北の質問には答えず、突然巧が話し出した。
「ハァ?知ってンよ!」
荒北は噛み付くように答えた。
「そっか、なら大丈夫だね」
荒北のイラつきは気にも止めず巧はニッコリと笑って話し始めた。
「初めて会った時、あの日は朝から雨だった。彼女はボロボロで、ヤケクソで、周りを傷つけて、自分も傷ついてびしょ濡れで、、、この店の裏手に座り込んでた」
「、、、」
「『何してるの?』って聞いたら、『うっせーよ、話しかけんな!』って横に落ちてたビンを投げられた。その姿はまるで傷ついた野良猫が毛を逆立ててるみたいに僕には見えた。知ってる?威嚇をする猫は、本当は怖くて堪らなくてすごく苦しんでるんだって」
「、、、」
「本当はあんな怖そうな子、いつもの僕なら関わらないはずなのに僕は何故か放っておけなかった。」
巧はどこか遠くを見つめて懐かしむように話した。
気づいたら口が勝手に動いてた。
『ここは僕の店なんだ。君みたいな子にいられたらお客さんが怖がって中に入れないんだけど』
『チッ!うっせーなぁ。分かったよ、どっか行けばいいんだろ!?』
『まぁ、そういうこと。ただね、雨に濡れた女の子をこんな風に放っぽり出したら僕が悪い人みたいじゃない』
『はぁ?』
『だからもし良かったら雨が止むまで中に入らない?それなら他のお客さんの迷惑にもならないし、僕は良心の呵責に苛まれたりもしない』
自分でも驚いた。
店に入れるつもりなんてなかったのに。
それに何でこんなに饒舌なんだ?
これじゃまるで必死になってるみたいだ。