第8章 秋は夕暮れ②
色んなことを考えた。
初めから巧は、私のことを遊びだと思ってた?
それならどうして、こんなにも苦労をして、私のことをここに置いてくれたのだろう。
じゃあ、、、本当はそうじゃなくて。
本当は私の受験のことを考えてくれたから?
それなら、あんな風に傷つける必要があったのだろうか。
40歳の大人が、もっとスマートにできないものなのか?
どっちにしたって、お粗末だ。
「ぷぷっ!」
沙織は思わず吹き出した。
「はい。本当に残念ですよね、、、!」
おかしくて涙が出そうだ。
「ま、それが分かったのも香田さんのお陰かな!」
「え?」
「今までありがとう!一緒に働けてすごく楽しかった!」
「、、、」
本当になんてお粗末なんだろう。
これじゃ、文句の1つも言えない。
大人だったら、それくらい言わせてくれたらいいのに。
まだ会って間もない頃、暴れようとする私を止めるために巧は勝負しようと言ってきた。
『腕相撲、僕に勝ったら君の好きにしていいからさ』
『はぁ!?腕相撲!?何で私がそんなこと、、、』
『あれ〜?もしかして自信ない?』
『んなわけあるかボケ!余裕だよ!!』
『じゃあほら、早く!腕出して!』
『分かったよ!さっさと勝ってこんな店辞めてやる!』
『いいよ。僕に勝ったら君の好きなようにしたらいい』
結局、1度も勝ったことなんてなかったけど。
っていうか、今思うと一応私、女子だし!
子供だし!?1回くらい勝たせてくれても良かったんじゃない!?
、、、、ぷぷっ。
「私も楽しかったです!今までありがとうございました!!」
本当にあの人は大人げない。
「うん!それじゃ私、そろそろ仕事に、、、って、あー!制服忘れてる!!ちょ、ちょっとダッシュで取ってくるね!」
「あ、はぁ、、、」
「そ、それじゃね!香田さん!受験、頑張って!!」
「はい、ありがとうございます、、、ってもう聞いてない、、、」
沙織は苦笑いをすると、後ろの扉に向き直った。