第8章 秋は夕暮れ②
黙り込んでしまった沙織を見て、フリーターの彼女は再びあせあせとした。
「あっ、えーっと、違うの。香田さんを責めてるとかじゃなくて、つまり私が言いたいのは、、、そんな時でも店長はそれまでとは違ってイキイキしてたってことなの!」
「、、、は?」
巧が?
大変だったんじゃないの?
無理、してたんじゃないの?
あの時も、、、これまでだって、、、。
「あの能面みたいな顔もね、なんか人間らしくなったっていうか。特に香田さんが店長にケンカふっかけてるときなんて、、、ぷぷっ!」
彼女はそう言ってクスクスと笑った。
沙織には訳が分からなかった。
「私ね、それまで店長のあんな困った顔見たことなかった!いっつもワザとらしい笑顔を能面みたいに貼り付けてて、、、本当は裏があるんでしょってずっと思ってた。でも香田さんと話してる時の店長は何かタジタジって感じで、でもすごく楽しそうで。この人、こんな可愛い人だったんだって初めて知ったの」
「、、、」
「皆もそうだったんじゃないかな?その頃から私も皆も店長をイジるようになったりして、、、!」
沙織は言葉が出てこなかった。
昨日、巧に振られてからずっと考えていた。
大事にされてたと思っていたのは自分の思い違いだったんじゃないかって。
今までのことは全部嘘だったんじゃないかって。
いっそ、そう思えてしまえたら楽なのに。
そう思えない、胸の奥で何かが引っかかって、巧を嫌いにさせてくれないのだ。
そう自分に思わせているのは何なのだろう?
ずっと考えていた。
どうして?
あんなに酷いことを言われても、彼のことをこんなにも信じていたいのだろう?
「ね、香田さんもそう思うでしょ?店長って顔はイケメンなのにどこか残念なんだよね〜笑」
きっとそれは全部これのせい。