第8章 秋は夕暮れ②
扉の向こうから荒北の声が聞こえた時、驚きとともに
「こんな姿見せられない」
と沙織は思った。
荒北の前ではいつも強がってしまう。
礼を言いたい時も、謝りたいときだって、素直な言葉は出てこない。
そんな荒北に巧といる時の姿なんて絶対に見せられない。
そんな自分がアイツの目の前で泣いてる?
しかも男のことで?
そんな自分はかっこ悪い。
絶対に馬鹿にされる。
そう思った。
だけど、、、いっそのこと馬鹿にしてほしかった。
いつもの調子で
「バッカじゃねーの?」
なんて言われたら、
いつもの調子で
「はぁ!?誰が馬鹿だよ!!」
なんて言い返して、ケンカして。
巧のことを忘れられるような気がしていた。
だから
「付き合ってるのかなぁなんて勘違いするくらい好きだった、、、。はは、笑っちゃうよな」
そう言って、荒北が笑うのを待っていた。
しかし荒北は笑うどころか何も言わなかった。
それどころか、ただ黙って真っ直ぐ沙織を見つめるその目は、
「全部受け止めてやるから」
そう言っているようで、沙織は自分の気持ちが溢れ出るのを止めることができなかった。