第8章 秋は夕暮れ②
「、、、フゥー」
思い出すとまた何かが喉の奥から込み上げてきたから、沙織は深呼吸をしてその何かを抑え込もうとした。
アイツに聞いてもらって、少し落ち着いたハズなのに、、、。
気を抜くと思い出してしまうのは最後に感じた巧の温かな手の感触で。
温かくて男らしい大きな手。
その手は何度も包みこむように、この頬を優しく撫でた。
そしてそんな時、見上げるとあの人はいつも幸せそうに微笑んでいた。
だけどそれは全部勘違いだった?
「本当はね、ずっと言いたかったんだ。、、、僕たち、終わりにしよう。」
最後に聞いた冷たく穏やかな声。
ねぇ、それは一体いつから?
思い出すだけで、色々なものが溢れて息ができない。
沙織は扉に額を押し付けるようにして、ギュッと目を瞑った。
金属でできた扉がヒンヤリと肌に当たって心地いい。
沙織はもう一度大きく息を吸った。
そして先程の荒北に撫でられた感触を思い出した。
荒北のことを思い出して、巧のことを忘れたかった。
アイツの手は冷たかった、、、。
冷たくて男にしては柔らかくて華奢な手だった。
本人はいたって乱暴で尖っていて、触れただけでこの手は傷ついてしまいそうなのに、、、
扉を開けた時、荒北は珍しく不安げにこちらを見ていた。
こんなところにまでわざわざ来て。
アイツは何も言わなかったけど
こうしていつも私を励ましてくれるアイツは、
本当はすごく優しいんだ。
、、、何でかな。
こんなに苦しいのにアンタのことが何だか可笑しくて、笑っちゃう、、、。