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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第8章 秋は夕暮れ②


カラン。
誰かが扉から出て行く音に巧はハッと我に返った。


「ありがとうござ、、、」



そこまで言いかけて出て行った人物のサラサラの黒髪と、かったるそうに歩く姿に気がついた。
席を確認すると、戸惑ったような様子の3人がいるだけで、荒北の姿はもう無かった。
巧はとっさに荒北を追いかけた。





荒北と話をしたかったわけじゃない。
ただ彼に確かめたいことが1つあった。




急いで扉を開けるとまだそこに俯向く荒北の背中が見えて、巧は少しホッとした。



「荒北くん」
小さく深呼吸をし息を整えてから荒北に声を掛けた。



「何?」
メンドくさそうに振り向く荒北。
しかしその顔は先程のただ不貞腐れた顔とは違っていた。
さっきまではまともに見もしなかった巧の目を、今度は荒北の瞳がしっかりと捉える。
睨みつけると言っても過言ではないくらいの鋭さで。
しかし巧はホッと息をつくように笑った。
その目が言いたいことが巧にははっきりと分かったから。



そして



「また来てね。沙織もきっと喜ぶから」



と言った。


今度のはワザとでも何でもなくて、ただいつもの癖で名前を呼んだだけだった。
だからその途端、



「テメェにゃ負けねェ!!!」




と叫んだ荒北に驚いた。



「いいかァ!?余裕こいてられンのも今のうちだからナ!こンのエロオヤジ!」




今にも噛みつきそうな勢いで荒北が怒っていた。


一瞬の間を置いて、何故荒北が怒っているのかに気がついて巧は再び微笑んだ。




はは、負けない、、、か。
そんなのもう決着は付いているっていうのにな。
荒北くん、君はそんなに沙織のことが好きなんだな。
僕が沙織の名前を呼ぶ。
そんなことで人目も気にせず怒れるくらいに。









巧は楽しそうに隣の席に座る荒北の話をした沙織の様子を思い出した。



尖っていて、冷たそうなのに
どこか温かくて、人間らしい。



なんでかな、、、君のことを嫌いでいたいのに、話す程に分かっていく。



沙織。
君が彼のどこに惹かれたのか。

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