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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第8章 秋は夕暮れ②


テーブルを拭きながらチラリと荒北達の方を見ると、荒北の手にはいわゆる赤本があって、背表紙に太いゴシック体で「洋南大学」と書かれていた。



巧はその文字を見て微笑んだ。



そして沙織がこれまで拒否をしていた大学に行くと言い出したあの日のことを思い出す。



「大学って、、、いきなりだなぁ。」


一瞬だけ心臓がドクンと嫌な音を立てたが、すぐに平静を装って笑った。



「どうして行きたいの?」



本気だろうか?
ちょっとした気の迷いなんじゃないだろうか?
まだそんなちょっとした希望を抱いていた。
しかし沙織はまっすぐな瞳で巧に言った。




「もう一度水泳がしたい」




そう言った沙織の目が本気だと言っていて、巧は優しく微笑むことしかできなかった。




「そっか。それじゃあ勉強頑張らないとね」





沙織の顔は希望に溢れていて、そんな姿を見ることを巧はいつも願っていた。
沙織がいつかこんな風に前を向けるようになることをずっと望んでいたはずなのに。
なぜか巧の心臓は騒ついた。







悔しい、と思った。








沙織をそんな気持ちにさせたのは自分じゃない。







荒北くんだ。









「うん!頑張る」






そう言って目の前で笑う沙織の顔がキラキラと輝いて、巧の心を突き刺した。







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