第8章 秋は夕暮れ②
こんなことになる事くらい、沙織をインターハイ会場に送っていった時点で分かっていたのに、、、
荒北くん、君は何も悪くないのに。
僕は自分で思っていたよりもずっと自分勝手だったらしい。
荒北達の元を離れて仕事をしながら巧は溜息を吐いた。
インターハイがあった日から、なぜか沙織は元気が無くて、しかし恐らく荒北に関することだと想像がついていた巧はあえて何も聞かなかった。
というよりも聞きたくなかった。
できることなら、このまま何もなかったかのように沙織の卒業を待って、沙織が望んでいたように一緒になろうか。
インターハイから帰ってきた時からそんなことを本気で考えていた。
そしてできるだけ早く、そのことを沙織に伝えたかった。
伝えなければいけないと思った。
そんな時、久しぶりに沙織が笑顔でバイトにやって来た。
その顔を見て、「あぁ、きっとあの日のことはもう無かったことになったんだ」
と巧は直感的に思った。
仕事の休憩時間も2人きりになって、久々にとても良い雰囲気で話すことができた。
沙織はこれまで通りの様子で、とても元気に明るく話していた。たまに油断すると口が悪くなったりして、その度に焦ったように口調を戻す。
そんな様子が可愛くて愛しくて、巧はその大きな手で沙織の頭を撫でた。
僕達はきっとこれからもこんな風に優しい時間を過ごせる。
そんな様子が自然と頭に浮かんだ。
そして巧が意を決して口を開いた時、
「あのさ、、、聞いてほしいことがあるんだ」
そう言って嬉しそう笑う沙織に一瞬だけ先を越された。
「ん、何?」
巧はつい力の入っていた拳を少し緩めて、できるだけ優しく沙織の話を促した。
その巧の表情にホッとしたように沙織は続けた。
「私、大学に行こうと思う」
巧はその時の事を今でも後悔している。
あの時、僕が少しでも早く言い出せていたなら。
君の話を遮ってでも僕の気持ちを伝えていれば。
何かが変わっていたかもしれないのにと。