第8章 秋は夕暮れ②
しかし巧はそう思うと同時に、一瞬だけ眉根を下げた。
「うちの沙織がいつもお世話になっています」
そして笑顔でそう言いながら、わざわざ沙織の名前を出した。
巧はそんな自分に心の中で苦笑した。
荒北くん、こんなことを一回り以上も歳の離れた君にするなんて僕は間違っているな。
そうだ、こんなことで君を困らせようとする僕は
間違っている。
巧は笑顔のまま、みるみる不機嫌になっていく荒北の顔を真っ直ぐに見た。
だって君はとても良い子そうだ。
そんなのすぐに分かった。
意地っ張りで、嘘がつけなくて、自分に正直な誰かさんに似た、、、ただの高校生。
だけど、、、いやだからこそかな。
僕はこうせずにはいられない。
だって。
インターハイがあったあの日。
目を腫らして泣きながらも、出会ってから僕が一度も見たこともないくらいにスッキリとした表情で帰ってきた沙織を窓越しに見たあの時から、
僕は君のことが嫌いだから。