第1章 春はあけぼの
屋上の扉を開けると、風が一気に流れ込んだ。
「ぶぇっくしょん!!」
沙織は花粉に当てられ、クシャミをした。
鼻をすすりながら、荒北を探す。
「あ。」
荒北はフェンスに寄りかかり眠っていた。
近づくと、横に大きなコンビニの袋があり、パンの袋がたくさん捨ててあった。
これ、全部食べたのか?
荒北の寝顔はとても気持ち良さそうだった。
屋上は適度に日が差して、春の暖かさに包まれていた。
沙織と荒北以外に人はいない。
沙織はジーッと荒北の寝顔を覗き込んだ。
ふふっ。何だ、寝顔だけは可愛いじゃん。
無意識に顔が緩んだ。
ハッ!いけないいけない。私は謝りに来たんだ。
沙織は新開の助言通り、買ってきたベプシを握りしめていた。
ってか、これアイツが好きだって言ったからとりあえず買ってきたけど、どうやって渡すんだ?
ってか、謝るときに物を渡すって、逆に失礼か?
あー!!もう分からんっ!
沙織は頭を掻きむしった。
よし!とりあえず、これはもう買ったし、私は炭酸飲まないから渡す!そして謝る!!
よしっ!
よーしっ!
よーーーし!
、、、
ってか、コイツ寝てるし!起こす?
いやいや、ナイナイ。私がそんなことされたら更に怒り狂うわ。
「はぁ」
力無い溜め息が漏れた。
とりあえず、荒北の前にベプシを置く。
「、、、」
ずっと見ていると、その穏やかな寝顔が仏のように見えてきた。
で、何となく手を合わせた。
「どーかちゃんと謝れますよーに、、、」
精一杯祈り、顔を上げた。
すると、荒北と目が合った。
「ア?何してンだ?」
荒北は訝しげに沙織を見た。
「ぎゃー!!!」
沙織は飛びあがった。
「な、な、何で!?」
「何でじゃねーよ!他人に向かって拝んでるヤツの方が何でだろーが!何なんだよ!ってか、オメー誰だよ!?」
「え?私?マジか!分かんない?、、、えっと、隣の席の香田なんだけど」
「あー、朝ドアの前に立ってて邪魔だったデカ女か、、、それで?」
あーもうなんだ!コイツ!寝ている時は素直に謝りたいと思ったのに、何でかな!今、猛烈に謝りたくないっ!
沙織は唸った。
「何なンだよ!何か用かよ!」
荒北がイライラし始めた。