第6章 秋は夕暮れ①
「、、、嬉しかった、、、」
小声ではあるが顔を赤らめながら荒北は確かにそう言った。
、、、。
しかしその言葉を沙織の頭はすぐには処理ができないでいた。
「えっと、、、今、何て?」
「 ハァ!?聞いてなかったのかヨ!?」
信じられないといった様子で眉を吊り上げて荒北が怒る。
そりゃ怒るよな。
でも、、、
「いや、聞いてたんだけど、何て言ったか分からなかった」
笑顔で答えると荒北は頭をかいて大きく溜息をついた。
あぁ、これは
またバァーカって言われるやつだ。
ケド。
怒られてもいい
バカにされたっていい
だからもう一回
ちゃんと聞かせて。
沙織は荒北の目をまっすぐに見た。
「、、、だーからァ、インターハイの時、テメェが受け止めてくれて助かったって言ってンだよ!!」
面倒くさそうに声を荒げる荒北。
しかし不服そうながらも今度はまっすぐに沙織から目を逸らさずに。
「お前が見に来てくれて、、、俺ァ嬉しかったんだヨ」
そうして放たれた最後の言葉は、
ストンと優しく沙織の胸に落ちた。
その瞬間に、フワッと灯る熱。
沙織は思わず頬をつねった。
あ、、、ちゃんと痛い、、、。
そう思うと同時に、鼻の奥からツンと何かが押し寄せて、沙織は俯いた。
なんで、、、
沙織は急いで制服の袖で乱暴に目を拭った。
なんでかな?
「あはは、バァーカ」
目を丸くする荒北。
アンタと話すといつもそう。
いつも私はフワフワ浮かれて。
そんな荒北に向けて沙織は悪戯っぽく笑った。
「そんなコト言ったって、ベプシは奢ってやんないよ」
どうしてこんなに
あったかい気持ちになるんだろう。