第6章 秋は夕暮れ①
沙織はすがるように荒北を見た。
沙織よりも少しだけ高い位置にある黒い瞳は
驚いているのか、それとも何かを考えているのか
固まったまま動かない。
私の気持ちはちゃんと言えただろうか。
荒北にはちゃんと届いただろうか。
沙織は不安だった。
佳奈にしろ巧にしろ、声をかけてくれたり、いつも付いてきてくれたのは全部向こうからだった。
沙織は自分から側にいたいと思ったのも、そしてそれを口に出したのも初めてだったから。
不安で仕方なかった。
黙り込む荒北の顔を見ながら、沙織の脳裏にはなぜか中学時代にこんな自分に告白をしてくれた高田のことが浮かんだ。
顔を真っ赤にしながら好きだと言ってくれた高田。
そんな彼に沙織は無愛想にも
「私、そういうの興味ないから」
と言い放った。
何てヒドイことをしたのだろう。
私は今、友達になりたいと言っただけでこんなに不安なのに。
私の何倍も不安だったであろう高田をあんな風に振るなんて。
だけど、、、
そんなに沙織に向けて彼は笑ったのだ。
ニッコリと優しい顔で
「そっか!それは仕方ないな。水泳、頑張れよ!」
と言って去っていった高田。
沙織は今の今まで忘れていたその時の高田の笑顔を思い出した。
はは、たぶん高田は味方だったのにな。
荒北は相変わらず黙ったままだ。
これは罰だ。
そんな優しい人をあんな風に振った私への。
だから辛くても、悲しくても
私は泣いたらダメだ。
高田がそうしてくれたように私も、、、
沙織は今にも喉の奥から込み上げてきそうな熱いものを必死で堪え、そして笑った。
「ハァ、、、やっぱりダメだよな」
うん、我ながらうまく笑えてると思う。
大丈夫。
そんで爽やかに手を振って、
最後は笑顔で、、、
沙織は息を吸って口を開いた。
「ちょ、ちょっと待てって!」
しかしあと少しのところまで出かかったその言葉は荒北に止められた。