第6章 秋は夕暮れ①
は、、、?
諦めた?何を?
新開の言葉に荒北の心臓が騒ぎ出す。
それって、、、新開、テメェは、、、
荒北の脳裏にこれまでの新開の言動が蘇った。
アイツに、、、?
「ちょっ!ちょっと待てェ!新開っ!」
階段を降りていく新開の背中を荒北は呼び止めた。
「ん?」
笑顔で振り返る新開。
「今のはどーゆー意味だヨ!!」
新開は口元に指を当ててまるでシィーと荒北をなだめるような仕草をした。
そして荒北に向かってバチッとウィンクをして言い放った。
「それは俺と沙織ちゃんの秘密だよ」
「んなっ!?」
固まる荒北を見て新開は満足そうに笑った。
そして
「まぁ、靖友。頑張れよ」
と言って背中越しに手を振り去っていった。
荒北はその赤茶色の頭が見えなくなるのを呆然と見ていた。
ドクンドクン、、、
荒北の心臓は相変わらず変な音を立てていた。
オイ。コラ、新開。
何だそれ。
俺は、ただアイツに謝りたいだけなんだヨ。
何も頑張ることなんかねぇっつーの。
そうだろ?オイ。
荒北は廊下に置いたペットボトルを手に取った。
新開がアイツに告ったァ?
んで、振られたかもしれないだァ?
そんなの関係ねぇヨ。
だって俺ァ、、、
荒北は震える程握りしめていた右手をゆっくりと開いて、重い扉に手をかけた。
ギィと鈍い音を立てて開く扉。
その先には雲1つない、やけに澄んだ空が広がっていて、
その下には金髪を風になびかせて呆然と立つ沙織がいた。
その顔を荒北は目を細めて見た。
その目にはもう涙は見えない。
荒北の姿を見て固まる沙織に少しずつ歩をすすめた。
ただお前と一緒にコイツを飲めたらって。
、、、それなのに
荒北は持っていたペットボトルを握りしめる。
ったく
オカシイだろーが
何でこの心臓は、、、
こんなに苦しいんだッつーの、、、。
一歩一歩その足を踏みしめるたびに、荒北の心臓の変な音は強まっていくばかりだった。