第6章 秋は夕暮れ①
新開は沙織の隣に腰掛け、パワーバーをまるまる一本頬張った。味はいつものチョコバナナ味。
隣ではズズッと鼻をすする音とともに沙織がパワーバーの袋を開ける音がした。
奥歯の方でガリっという音がして口の中に広がる甘い味。チョコチップを噛んだのだ。その甘さが喉を伝うと不思議と胸の痛みが引いたような気がした。
パワーバーは基本的にはチョコチップがそのまま残っていることなんてない栄養食品だが、たまにこういうことがある。
新開はこれを【当たり】と呼んでいた。これに当たると大抵良い事が起こるからだ。
今日は厄日なんだけど、、、
新開はもう一本パワーバーを口に放り込んだ。
再び口の中には甘い味が広がる。空を仰ぐと秋らしく澄んだ青空が広がって気持ちのいい風が吹いた。
どうしてこんなに気持ちがいいんだろうなぁ、、、
「ゲホッ、何これ口の中めちゃくちゃパサパサする!」
突然隣で沙織がむせる音がした。
沙織が顔をしかめて新開を見た。新開はその顔を見て思わず微笑んだ。
あぁ、そうか。
君が隣にいるせいだ。
あの晩と同じ、
幸せな時間。
俺は一体
あの夜のことを
何度思い返しただろう。
君が振り向いてくれただけで嬉しくて、
君と居られるだけで幸せなんだ。
あの日と違うのは、
俺はこの心臓を
もう高鳴らせたりはしないこと。
それから、、、
「そう?俺はこれ大好きなんだけど」
新開はもう一本ポケットから取り出して頬張った。
「ってかアンタそれいくつ持ってんの?アンタのポケットは4次元ポケットなの?」
途端に沙織がたたみかけるようにツッコミを入れる。その口元は笑いを堪えるように緩み、その目はもう涙が乾いて、嬉しそうにキラキラと輝いていた。
君がこんなに笑ってくれること。
それも俺のことで笑ってくれるなんて、
、、、こんなに嬉しいことはないだろ?
「ん?」
新開は大袈裟にモグモグと口を動かしながら、何がおかしいとでも言うように沙織を見た。
「あっははは!何その顔!ヒドイよ、アンタ!女子が泣くよー?」
するとその新開の顔を見て沙織はもう堪えられないという風に吹き出した。
、、もっと
もっと、、、
笑ってくれないか?
その為なら何度だって
変な顔をしてやろう。