第6章 秋は夕暮れ①
そして新開は今にも触れてしまいそうなくらい沙織の耳に顔を近づけて
「どうして、俺じゃないの?」
熱い息を吐き出すように呟いた。
その声は低く、掠れて、艶めいていた。
「え、、、?」
しかし沙織は不思議そうに新開の言葉を聞き返す。
その反応に新開は静かに微笑んだ。
まったく君という人は
俺がこんなにもドキドキしているというのに
君の心臓はこんなに近くで聞いても静かなままで、
君はいつも通りの君のままで。
「あ、、、っ、ごめん、、、」
我にかえったフリをして、新開は優しく沙織の肩を掴み、サッとその身体を引き離した。
驚いた声の1つでも出してくれれば
このまま君を奪い去ってしまうのに、、、。
「ちょっとよろけちゃって、、、酸欠かな?」
新開はそう言って頭をかいて誤魔化したが、沙織の顔見ることはできなかった。
なぁ、沙織ちゃん。
君もこんな風に辛いのか?
結構、、、来るよな?
だったらさ、、、
「ダメだなぁ、部活してないと弱っちゃって、、、」
新開は制服のポケットを探ってパワーバーを取り出した。
「一緒に食べない?元気出るよ」
これでも食って、楽しくいこうか。
そして新開はとびきりの笑顔でまだ目の赤い沙織にパワーバーを差し出した。