第6章 秋は夕暮れ①
沙織が教室から飛び出してそれ程経っていないはずだったが、長い廊下のどこにも沙織の姿はなかった。
「ハァ、、、さすが足が速いな、、、」
それでも新開には沙織がどこに行ったか見当がついていた。
認めたくはないけど、、、あそこしかないよな、、、。
新開は苦笑した。
その場所は新開がずっと避けてきた場所だった。
何度か覗こうとしたけれど、そこへ向かう階段に立つ度に足が竦んだ。
荒北と沙織が楽しそうに話す姿を見るのが怖かった。
自分の知らない沙織を見るのが怖かった。
たとえ3人で話していたとしても、自分だけ取り残されるのではないか。
そう思うと怖くて、
新開の足はいつもこの場所で止まるのだ。
しかし今日は、その階段を必死で駆け上がった。
汗ばむ手を扉のノブにかけて、その重い扉を静かに開く。
その瞬間、一気に風が吹き抜けて、思わず新開は目を覆った。
そして目を開けると、そこには眩しいくらいに明るい屋上で1人フェンスにもたれかかる沙織がいた。
あぁ、こんな場所で君たちはいつも話していたのか。
頭の中に、フェンスを背に言い合いをしながらも肩を並べて座る2人の姿が浮かんだ。
新開はまた竦みそうになった足をゆっくりと持ち上げて、その先にあるアスファルトを踏みしめた。
まだまだ蒸し暑い日差しが照りつけるこの屋上で沙織の長い髪だけが風になびいて、その周りだけまるで季節が違うようだった。
靖友、おめさんはいつもこんなに綺麗な彼女の髪を見ていたのか。
新開はその背中に静かに手を置いた。
すぐに沙織が振り返る。その瞬間、焼けたアスファルトの匂いとともに沙織の髪の香りが新開の鼻腔に流れ込んだ。
その香りは肺に入って新開の胸を締め付けた。
おめさんはいつもこんな匂いを感じていたのか。
新開を見て強張っていた沙織の顔からホッと力が抜けたのが分かった。
「っと、新開か、、、」
そして沙織の眉が残念そうにハの字に下がる。
はは、本当に君は分かりやすい。
その顔を見て新開の胸が再び痛み出した。
「酷いなぁ、、、ハァ、、、誰だと思ったのかな?」
胸が苦しいのは走ったせいだな。
きっと、、、そうだ。
新開は自嘲気味に笑い、沙織を見た。