第6章 秋は夕暮れ①
「もしかして沙織ちゃんとか?」
さらにつつくと一瞬固まり荒北の顔が赤くなる。
ビンゴだ。
「、、、ッ!バァーカ!!何でアイツなんだヨ!!」
「いやぁー、おめさんがビビるのって彼女くらいかなぁって」
「ハァ!?俺がいつあんなやつにビビったヨ!?」
新開はまた笑って、
荒北の言葉をスルーして確信に触れた。
「そういえば彼女インターハイ来てた?」
再び固まる荒北。
「、、、ッ!話をすり替えるな!バァーカ!」
新開は持っていたパンを頬張った。
なぁ、靖友。
そんなんじゃ分かっちまうだろ?
「おめさんは見なかったか?」
荒北のツッコミを軽くいなして、新開はまっすぐ荒北の目を捉えた。
荒北の黒目がかすかに泳いで、すぐに逸らされる瞳。
荒北はぶっきらぼうに答えた。
「、、、見てねぇ、、、」
ほら、やっぱりだ。
沙織ちゃん、やっぱり君はあの時あの場にいたんだな、、、って。
新開の脳裏に1人だけゴールとは反対方向に向かって走る沙織の姿が浮かんだ。
その瞳はまっすぐ前だけを向いて。
すれ違う俺には見向きもしないで、過ぎ去っていく。
その先には俺の大切な仲間がいて、、、。
ずっと頭の中から消そう消そうと藻搔いていた光景がはっきりと色を帯びて鮮やかになる。
どうして気がついてしまうんだろう。
どうして君の全部が見えてしまうんだろう。
気がつかなければ、もう少しだけ幸せでいられたのに。
「そっか。俺もチラっと見ただけで話せなかったんだよ。もしかしたら似た誰かだったのかな」
新開はそう言ってただ笑った。
その新開から見て今教室で起こっている出来事はある意味予想の範疇にあった。
沙織のことは分からないが、恐らく荒北はあの日何か沙織に後ろめたいことができて、夏休み中悩んでいた。
まぁ恐らくその後ろめたいことも新開から見れば大した事ではないと思う。
しかしそんな事でも悩んでしまうくらい、この男は威勢の良い割に気が小さい。
そしてそのせいで朝からずっと沙織の事を避けていたのだろうと新開は呆れていた。
しかし今、そんな男が意を決して沙織と向き合おうとしている。
荒北の何か追い詰められたような表情がそう言っていた。