第1章 春はあけぼの
「よっこらせっと」
香田沙織はゴミ袋をポイと店の裏にあるゴミ庫へ投げ入れた。バイトの最後にゴミを捨てるのが沙織のルーチンだ。
小さな窓から店内を覗き込む。他のバイト仲間たちは閉店まで働くが、高校生の沙織は21時までのシフトだ。
「ハァー疲れたー」
思わず溜め息が出た。階段に座り込む。
そのままボーッとしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。表通りを覗き込むと、ジャージ姿の佳奈が男と歩いていた。
「は?」
男が振り向いた。その顔は、あの隣の席に座る荒北だった。
何で佳奈がアイツと歩いてるんだ?しかもこんな時間に、、、。
沙織はそのまま2人の後をつけた。
2人はなんだか仲が良さそうに見えた。
佳奈、眼鏡を外してる。しかもアイツのジャージを着て、どういうことだよ。
沙織は混乱した。
2人は駅の近くで立ち止まって話していた。
なんだか佳奈は困ったような表情だ。すると突然、荒北が佳奈にむかって怒鳴った。佳奈が怯えた表情で固まっていた。
それを見た時、反射的に沙織の身体は動いていた。ヒールをカツカツと鳴らして走りこみ、一気に荒北にタックルした。
荒北の身体が地面に倒れこむ。
「佳奈!大丈夫!?」
「えっ?えっ?沙織ちゃん!?」
佳奈に振り返ると、顔に傷があり、脚を擦りむいている。
それを見た沙織は頭が真っ白になった。
そして倒れている荒北の腹の上に飛び乗り、こう言い放った。
「テメェ!佳奈に何をした!!」