第6章 秋は夕暮れ①
同じクラスになってすぐだった。
朝練を終えて、同じクラスなんだからいいじゃないかと
嫌がる靖友を捕まえて教室へ向かった。
「ハッ!なーんか昨日からエラくご機嫌じゃナァイ、新開!」
ポケットに手を突っ込みながら大股で歩き、靖友が毒づく。
そりゃ、おめさん。好きな娘と毎日同じ空間にいれるんだからご機嫌にもなるだろ。
朝練中もニヤニヤが止まらなくて困ったんだ。
「ははっ、まぁな。ところでおめさんは今朝からずっと虫の居所が悪そうだな」
「 ケッ!昨日の晩、変な女に絡まれてよォ、、、クッソ、思い出すだけで腹立つぜ!あの女、今度会ったらただじゃおかねぇ!!」
威勢のいい言葉とは裏腹に自分の体を抱くような仕草で身体を震わせる靖友。
そんなに怖い目にあったんだろうか?
その姿は怖がりながらも「シャー!」と毛を逆立てる猫のように見えた。
靖友が猫になった姿を想像して笑っていると、
「ア?なんだコラ」
と言って靖友に睨まれた。
その片眉を吊り上げた顔もまた面白くて笑った。
靖友とそんな楽しい楽しい会話をしながら、教室の扉に手をかけた。
その瞬間、ガラっと扉が開いた。そして見覚えのある金髪頭が飛び出した。
俺は目を見開いた。
香田さんだ、、、。
フワッと春の風にのって香りたつ、甘い匂いで思い出す。
かつて廊下ですれ違うたびに感じた高揚感を。
まるでスローモーションのように彼女の髪がなびいて、少しずつ長い髪に隠れていた顔が現れる。
あぁ、、、そうだな。
やっぱり俺は
君が好き。
その綺麗な目と目が合った瞬間、ドクンと跳ねた心臓がそう言った。
そのサラサラの髪に今すぐ触れたい気持ちをなんとか押さえつけて、ポンとできるだけ軽くその細い肩に手を置いた。
「香田さん、オハヨ!廊下に飛び出したら危ないぜ?」
ヨシ!なかなか自然だ。
そして驚く彼女に人差し指を向けて、心の中でこう言った。
バキュン!
俺は俺を奮い立たせた。
、、、はは、なぁ心臓さんよ。
ちょっとは落ち着いてくれないか。
「新開!テメェはいちいちキザなんだよ、バァカ!」
あぁ、靖友、俺はバカだな。
緊張して彼女の反応も見れないなんて。
「靖友も見習えよ」
俺からの一方的な会話でさえ
こんなに嬉しいと思うなんて、
本当にバカになっちまった気分だよ。