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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第1章 春はあけぼの


部室に着くと荒北は電気のスイッチに手を触れかけたが、一瞬考えてやめた。
「とりあえず、ソコ座っとけ」
ぶっきらぼうに指図する。
佳奈は荒北が指したソファに腰を下ろした。見ると、膝をすりむいていた。
荒北は自分のジャージを手渡した後、救急セットを出した。
「自分でできっか?」
荒北は救急箱を手渡した。しかし佳奈の手は震えて、うまく箱を開けられない。
「しゃーねーなァ、、、」
荒北は箱を奪うようにして取った。
「ご、ごめんね、、、」
佳菜の声はか細い。
「、、、別に」
荒北は可能な限り感情を殺してそう言い、消毒液を取り出した。
ガーゼが傷に触れた途端、佳奈はビクッとした。
「わっ!痛かったか!?ゴ、ゴメ!ゴ、、、」
驚きと焦りからピンセットが落ちる。
手は汗にまみれ、ゴメン、その一言がなかなか言えなかった。
その様子を見た佳奈は突然吹き出した。
「プッ!あはっ!荒北くん!大丈夫、痛くない。ちょっとビックリしただけ」
荒北はその様子を呆然と見ていた。

ハ?笑ってやがる、、、。

「本当に大丈夫だから!荒北くんのおかげで、擦り傷だけで済んだし!本当にありがとう。」
佳奈は目を潤ませたまま笑っていた。
それを見て荒北は拳を握りしめた。
「バァーカ!!泣いてるクセに笑うんじゃねェよ!それに擦り傷だけだってェ!?ケガしてんだろォ!俺があの時通り過ぎなけりゃ、テメェはそんな目に合わなかったんだろーが!!礼するとこじゃねンだよ、怒るとこだろォが!!」
途端、佳奈の顔から笑顔が消えて、口をギュッと結んだのがわかった。

どれだけ怖かっただろう。自分が通り過ぎた時、コイツは助けてと叫んだはずだ。その声を聞いてもらえなかった時、コイツはどれだけ絶望したんだろう。

荒北は走っていると周りが見えなくなる自分を心底呪った。
佳奈の肩は震えていた。その肩は小さく、荒北が触れると壊れてしまいそうで、抱きしめてやることもできなかった。そんな自分が情けなく、腹立たしかった。

「、、、とりあえず駅まで送るわ、、、」

荒北は頭をかき、佳奈が落ち着くのを待った。
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