第3章 侵攻
東の空が濃紺に色付く頃、私達は目的地へ到着した。
真新しく綺麗な高層ビル。だがその割に建物の周りには人は少なく、出入りする者もいない。
「地下の方から魔力の残滓を感じるね。とりあえずここ以外の出入口がないか周ってみる。ランサーは上からの侵入ルートが無いか探して」
「承知した」
そう言うとランサーは近くのビルの看板や外壁を足場に、軽やかに飛び上がり見えなくなった。
金を惜しまない奴の事だ。聖杯戦争の為にビル一棟建てるくらい造作も無いだろう。
私は確信していた。この建物にアトラムが居ると。
5分程で調査を終えると直ぐにランサーと落ち合った。
「正面以外に入口は2つ。地下の駐車場からの搬入口と西側の非常口。どちらも結界が張ってあって無理に破れば気づかれる」
「俺が見た限り屋上の結界は頑丈ではない。侵入は比較的容易いだろう。しかし最上階には10人程度の魔術師が待機していた。幸いサーヴァントは居ないようだが戦闘は避けられない」
二手に分かれて突入するのはやや不安だが、他に効果的な陽動が見つからない以上は仕方が無い。
何かいい策はないものか…あれこれ思案していると急にランサーは霊体化を解き姿を現した。
「マスター、中の様子がおかしい」
そう言うと一瞬の内に、私を抱えて地面を蹴ると少し離れたのビルの屋上へと跳躍した。
私も一応鍛えてはいたが、比べ物にならない程サーヴァントの身体能力は常軌を逸脱している。戦闘を見る前からはっきりと感じ取ってしまった。これはもはや人の形をした兵器だと。
「な、中の状況は…どうなってるの?」
目を凝らして中の様子を伺うランサー。身体能力だけでなく視力もすごいらしい。
「……最上階にいた女達は皆、殺されている」
「どういう事……他のサーヴァントが入り込んだの?私達が見ていたのに?」
「わからない。だが確かに言えるのはサーヴァントの気配は最初からここにいた一体のみだった」
「な、っ……」
背筋をゾワリと悪寒が走る。
つまりそれは、召喚されたサーヴァントが味方の魔術師達を殺したという事?