第7章 降伏
言わなきゃ、さっきは躊躇ってしまったこの思いを。聖杯戦争が終わったら、きっとカルナも消えてしまうから、その前に。
私もちゃんと感謝の気持ちを伝えなければいけない。
「……私も、」
「さて」
私の声は深いテノールに掻き消されてしまった。オイオイなんてタイミングの悪い……。
神父は説教台に手を付き、神のお告げでも語るような仰々しさで言った。
「別れの挨拶は済んだかね」
私は何故だかそれが別のものに見えた気がした。
例えば、判決を言い渡す前の裁判官とか。人を唆(そそのか)す悪魔とか。
その時、男の死人のような眼がギラリと輝いた。
「では令呪を以って命ずる……自害しろ、ランサー」
下される、無慈悲な命令。
それはあまりにも突然で、私はその場で岩の様に固まり動く事ができなかった。
そんな私を、カルナは突き飛ばした。
刹那、日輪を模した穂先がカルナを捉え、そのまま黄金の槍は主の胸を穿いた。瞬く間に辺りは一面鮮やかな赤に染まる。
「う、そ……」
無敵を体現した黄金の鎧は、先の戦いで失われていた。
どんな攻撃を受けても倒れない、あの最強のサーバントはここにはいない。
カルナは仁王立ちのままただ宙を見つめ、呟いた。
「……そうか、そういう事か」
その表情は一片の恨みすら無く、清々しく澄み渡っていた。