第7章 降伏
私の足は、手は、魔術回路はまるで機械の様に迷いなく動き、愉悦に浸るエセ神父目掛けて飛び出した。サバイバルナイフに雷を纏わせ、助走を魔力放出で増強する。
私は憎しみでしか戦えない破綻者なのかもしれない。
例えそうだとしても、今は……今だけはそれでいい。
「この腐れ外道がッ!!」
神父が衣に仕込んでいた細身の短剣《黒鍵》を構える。右手に3本、左手に3本。
なおも距離を詰める私に左手の3本が飛んでくる。利き手を失った私は全てを弾く事が出来なかった。払い落とした2本の剣と床が奏でるけたたましい金属音。それと同時に右足に皮膚を裂く鋭い痛みが走るが私は、構わず突き進む。
「そうだ、来い!!___ッ!」
「死ねえぇぇぇぇ!!」
振りかざされた憎しみの刃が黒衣の神父に届く事はなかった。
神父の聖なる短剣もまた同様に。
「何ッ!?」
「カル…ナ、」
目にも止まらぬ速さで私と神父の間に割って入ったカルナは、神父の黒鍵を素手で弾き飛ばし、私の手首を掴んで止めた。
「私欲に塗(まみ)れた監督役よ、聖杯戦争が終わるまで___の身の安全を保証すると誓え。その後でなら俺の命など幾らでもくれてやる」
痛々しく穴の空いた身体から血と臓物をボタボタと溢しながら、鬼気迫る表情ででカルナはそう言った。
「……わかった、約束しよう」
その修羅の様な気迫に気圧されたのか、呆気なく神父は敵意を解いた。
そしてカルナは私に向き直ると、穏やかに微笑んだ。
それがどれ程の痛みを耐えて笑っているのか、私に推し量ることはできない。
「生きてくれ、___。他の誰かの復讐ではないお前自身の人生を」
「バ、カルっ…ナ!!……だっ…か、ら……っ、」
漏れ出すのは嗚咽ばかりで、言葉を成さない。
だからそういう綺麗事は嫌いだって、私言ったじゃん。
「済まない___。そして許されるなら……」
それは誇り高く無欲な英雄が、初めて抱いた望みだった。
「いつかまた逢えるその時まで、俺を待っていて欲しい」
その言葉を残し、カルナは光の粒となって消えた。