第6章 強襲
「顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」
その詠唱に絶望すら感じた。
「バアル、フォルネウス、ナベリウス、アスタロト。まず手始めに4体程でいいだろう」
空に大きな魔法陣が浮かび上がり、召喚される巨大な使い魔。
勝てるわけが無い。
七十二体の悪魔を従えた魔術師……そんな奴、一人しかいない。
「……魔術王、ソロモン」
魔術の祖がその目に宿した光は、酷く冷たいものだった。
ランサーは強かった。
必殺技の一つを封じられながらも、召喚された異形の魔物を貫き、引裂き、蹴散らした。
何体も何体も。
その超人的な強さを見て、勝てるかもしれないと心の何処かで思っていた。確かに……途中までは。
ソロモンは言ったのだった。
「『七十二柱の魔神』はその存在自体が一つの術式であり概念だ。いくら倒したところで数が減る事はない」
この化け物共は、無限に湧くのだ。
なんとかこの状況を抜け出さなければならない。消耗戦はどう考えてもこちらが不利だ。私に魔力がもっとあれば、父の魔術回路を受け継げていれば。意味の無い事だとわかっていても、頭を過ぎるのは都合の良いイフばかり。
声に出さず頭の中で念じる。
(ランサー、私は奴のマスターを探す。魔力は惜しまず使って。死んだら許さない)
私は走り出す。
しかし残酷な声が響く。
「見えてないと思ったか?」
「っぐ!!」
指先一つで発動した魔術によって瓦礫の山に吹き飛ばされた。
受け身は取ったが、衝撃で肺がビリビリする。
「マスター!!」
飛んできたカルナは私を庇うように、迫りくる全ての攻撃を一手に受ける。
血を吐きながら、それでも尚一歩も引かず立ちはだかる。
「マスター、逃げろ」
「無理だ!アイツからは逃げられない!!」
カルナは微笑んだ。
「心配は無い。オレが何とかする」
それが武人(クシャトリヤ)としての、英霊としての彼の在り方なのか。どう見ても限界な身体で泰然と言い切った。