第4章 波乱
「あ゛あ゛あああァァァ!!!」
青い炎が燃えていた。
最先端の研究室を想起させる魔術工房は破壊され、その中心で生きたまま身を焼かれる苦痛に叫び狂う男がいた。
「アト、ラム……?」
魔術の炎はあっという間に、一人の人間を物言わぬ炭の塊へと変換した。
ランサーは敵に向かいゆっくりと歩を進める。
「キャスター(魔術師)のサーヴァントよ、貴様は何故仕えるべきマスターを手に掛けた?」
空に翳した右手には神々しく光を纏って金の槍が実体化していく。
身丈ほどあるそれを彼は易々と操り、構えた。
「あら、そんなこと聞いてどうするつもり?まさか温情でも与えてくれるのかしら」
血に染まった黒いローブによって顔の上半分を覆った女は殺意に満ちていた。青紫の紅を引いた唇がニタっと弧を描く。その手には禍々しい気を放つ奇妙な形の短剣が握られていた。
「そうだな。掛ける情けも無いのにわざわざ聞く話ではなかった。忘れてくれ」
「連れないわね。一応聞くけどアナタ、私に鞍替えする気はないかしら?その忠誠が令呪による縛りであるなら、解放してあげるわ。私の宝具で」
「……なんだと?」
「っ!令呪を無効化する、宝具!?」
宝具といえばサーヴァント達のとっておき……切り札にして必殺技である。生前の武器やその英雄に関する逸話や概念がそのまま能力になったものなど様々だが、戦う前にわざわざ明かす奴なんていない。これは間違いなく罠だ。
「私の宝具はあらゆる魔術を初期化する。そちらのマスターと契約を切った上で私と契約してくれれば、上質な魔力をいくらでもあげるわ。聖杯を求めるアナタにとっても悪い話じゃないでしょう?」
「……確かにオレのマスターの供給は頼りないものだ」
本来呼び出せる筈もない過去の英雄が何故召喚に応じるのか……答えは簡単だ。英雄達もまた求めているのだ、聖杯を。聖杯が起こす奇跡を。
聖杯を手に入れる為に強い魔術師からバックアップを受けるというのは実に理にかなっている。